2012年12月25日火曜日

教育の効果と影響力

性的関係のあり方についても、比較的偏見が少なく、男性同士、女性同士、異性間の性愛、すべてが容認されていた日本のやり方が、異性間の性愛でなければ、人間としてのモラルに反するものとされるようになったのも西欧の影響である。明治の為政者たちはこれら西欧のやり方を、進んだ技術をもたらす優秀な思考方法として、人生観や夫婦観、さらには行動の規準、暮らし方、歴史など文化のまったく異なる日本へそのまま適用して、西欧に追いつき、追い越そうと考えた。さらにそれらの考え方は、一八七二(明治五)年に全国規模で作られた学校教育制度(学制)によって、全国津津浦浦の子どもたちへも伝達された。

誰もが教育を受けられるようになった効果は計り知れない。識字率が向上し、人々は過去の書物の内容や、新しく研究されたことを、いなからにして知ることができたし、それを自分の考えにプラスして発展させることができた。しかし、その輝かしい効果の一方で、教育が人々の認識を大きく変える力を持つことは忘れられがちである。その影響力とは、次のようになる。

全国津津浦浦まで国民すべてに同じ思想を伝達して、すべての人が同じ方向に向かって考えるようになったこと。最初は「そうかなあ?」と疑問視していても、毎日毎日、子や孫にまで代々その思想が与え続けられると、人々はそれが最初、自分たちの心の片隅で疑問視したものだったことを忘れてしまうし、いつの間にか自分の思想へと取り込んでしまうこと。それまでほとんどの知識が、個々人の体験を基本として会得されていたのに、教育制度が実効しはじめると、正統な知識とは、国が定めた教科書中に書かれた知識となってしまったことにより、専門家とは一番多く正統な知識を持った人、つまり、長期間より高度な学校教育を受けた人となり、専門家は誰よりも専門項目について「正しい判断」のできる人だと国も認め(「免許」授与)、人々も認めるようになったこと。

教育によって狭められた最大のものは、人々が伝えて来た体験による体感的知識だと思う。例えば、死者を北枕にするのは、釈迦の涅槃図からだと、ほとんどの人は考えている。私もその一人だった。しかし、藤井正雄氏が「頭を北側、顔を西側に向けて側臥すること」は頭寒足熱や内臓の位置に照らして大変合理的で、「おしゃかさまがからだのぐあいが悪くなったから一番リラックスしたいい姿勢で寝たんだと思います」(『からだ』弘文堂)と言っているのを読み、そう言えば明治以前には日本にも、そういう身体の感じ方に従うやり方が正しいこととされ、またそれを自分が感知できることも正統とみなされる精神風土があったのだったと、改めて思い起こした。

そして、なぜ現在のように、体感的知識が狭められたかと言えば、教科書に書いていない、いや書けない知識だったからだろう。さて、これまでのところで知ってほしかったことは、明治の初めにあって日本の切実な西欧吸収熱と、同時に当時の西欧社会が、自身でも予期しなかったほどの強烈な「科学性」指向へと転換していった時代であったこと。これら二つの偶然の重なりが、日本における価値基準のあり方を、それまでの体験をもととした「日常性」や、心と身体の調和の重視という大変人間的なものから、書物に記載可能な「科学的」知識の偏重へと、強力に方向転換していったこと。さらにそれらの新しい「大切なのは科学性」という価値観は、学校教育制度を通じ、全国津津浦浦の子どもたちへ、その普及と定着に従って浸透し、人々の価値観を大きく支配したことである。



2012年9月3日月曜日

本性のちがった二種類の美

「正月のこと、自分か生まれかわったという意識だった。みるものがみな明るく、非常に美しくて。生命がふきこまれたという感じがした。急に人生を感じた。石にこしかけて外界をながめていると涙がでた。非常にきれいな、絵葉書とでもいうか、夢のような外界の美しさだった。躍動の感じはなかった。子供にかえったという単純な夢のような、今までの懐疑状態がとけて、急に眼が外界にひらいたという感じ。すばらしい正月だった。これまではなにもかも枯れくちた世界だった。このときは神経が集中してかるかった。うっとりしたという感じ。自我意識を感じるでもなし、消えてしまったでもなし」。

「この孤島にわたって幾日目かのことだった。私はその日ある農家にまねかれいていたが、座敷からおもてをながめると、防風林でかこまれた荒れた庭の上に、息をふさぐかのように南海のしめった大気がじっとりとよどんでいた。相手をしていた主人が所用でたったあと、所在なくひとりでおもてをながめているうち、にわかにおもてがさわがしくなって、駁雨が見まってきた。この島では天候がかわりやすく、てりつけていた太陽がかげったと思っているうちに大粒の雨がおちてくることが稀ではない。

庭にふりそそぐ雨の景色、それ自体はなんの変哲もなかったが、うす暗い座敷にこもってひとりながめていると、急にロでいえぬ美しさを感じた。なにが美しいというのではない。見えているもの、耳をうつもの、そのままにすべてが美だった。天地間の美がここに顕現したと感じた。じっと見ていると涙があふれてきた。主人がもどってくる気配がしたのであわててみなりをつくろっているところへ、わびを言い言い彼がはいってきた。それと一緒に美の世界はもうにげ去ってしまった」。

白鳥のよそおいにも、園丁のかついだ一本の木にも、躍動する生命を感した女のひとの場合と、あとの二つの例をくらべてみると、どちらも人間をつっむ外界はみごとに美化されているのだが、双方の間にはなんとへだたりがあることだろう。

まえの女性の方は、自分か生をよろこぶのとともに、まわりの人やけものや草木までも生にあふれてあたたかな美しさをもっていると感情移入する。そうしてこの生のよろこびをともどもにわけあおうと現実にのぞんで、自分から共同的行動にでるのである。ところがあとの二人の美的鑑賞者は本性これとちがって、石にこしかけたり、うす暗い部屋にひとりしりぞいたりして、自分の向側にある外物を不動のうちにながめわたしている。

彼らは人のいない孤独の座にいなければならないし、現実界でのうごきをとめて、じっとたたずまなければならぬ。さもなければ美はやってこないのである。こうしてきた美は、あたたかな生きた美とは別の、つめたい。不動の自然を超脱したこの世ならぬ美である。このように美にはあたたかさとつめたさ、生命的と生命離脱的、躍動的と静止的、現実的と非現実的、本性のちがった二種類の美があると知らなければならない。

2012年8月2日木曜日

民主党州と共和党州

同じように共和党を強く支持すると答えたアメリカ人は、いつでも一四パーセント前後である。必ずしも強く支持するわけではなしがどちらかといえば支持するという比較的弱い支持者を入れて計算した場合も、その数字は驚くほど一定している。

民主党の支持者はたえず五七パーセント前後で、国民の過半数を超える者が継続的に民主党の支持者だということになる。自分はどちらの政党にも属さないとする独立派が、いつの世でも八パーセント前後いたから、アメリカの共和党の支持者は継続的に三五パーセント前後ということになる。

すなわち、アメリカには過半数を占める大きな民主党支持の集団がいて、共和党を政党として支持するのは、少数派というほどではないにしても、比較的少ない数の人間たちであるという実態がこの数字から浮かびあがってくる。

民主党州と共和党州

アメリカの政党支持率は安定しており、永年にわたって変化しないという状況は、州単位の政治ではもっと顕著に現われる。アメリカの家庭のように、それぞれの州には一定の傾向といったものがあるが、ここに見られるのは圧倒的に民主党が優勢であるという状況である。

先ほどの五七パーセントが州単位でも正直に反映されている。たとえば、選出される州知事がいつも決まって民主党出身者であり、過去三〇年以上にわたってこの傾向が続いてきた「民主党」州というのは、次のような州である。

アラバマ、アーカンソー、フロリダ、ジョージア、ルイジアナ、ミシシッピー、ノースカロライナ、オクラホマ、サウスカロライナ、テネシー、テキサス、バージェア、ハワイ。少なくとも二五年以上にわたって民主党の州知事を出してきたという、相当民主党よりの州というのもある。

アリゾナ、コロラド、コネチカット、ケンタッキー、メリーフンド、ミズーリ、ニューメキシコ、オハイオ、ロードアイランド、ウェストバージニア。このほかにも、どちらかといえば民主党が強いという州は、アイダホ、インディアナ、マサチューセッツ、ミシガン、ネバダ、ニュージャージー、ニューヨーク、ユタ、ワシントン、ワイオミングなどである。

反対に共和党が圧倒的に強い州というのも、民主党支持の州ほど数は多くないが存在する。たとえばカリフォルニア、カンザス、ミネソタ、ニューハンプシャー、オレゴン、サウスダコタ、バーモント、ウィスコンシンなど。

しかし急いでつけたしておかねばならないのは、だからといって、いつも確実に民主党の大統領が選出されるわけではないということである。

2012年7月2日月曜日

新疆ホータンの警察襲撃、「深刻な暴力テロ事件」と断定

新疆ウイグル自治区和田(ホータン)市公安局は20日午後、メディアの取材を受け、18日に同市で起きた派出所襲撃事件は「深刻な暴力テロ事件の連鎖反応が起きないようただちに対処、地元の各民族の住民からも卑劣なテロ行為に批判の声が上がっているという。

和田市公安局の白合提亜副局長によると、事件発生後、公安、武装警察は殺人犯と抵抗し続ける暴徒14人を射殺、4人を解放した。斧(おの)、短剣、なた、ナイフなど30点のほか、未使用の火炎瓶3本、石48個、弾弓1つ、唐辛子30グラムを押収した。同公安局の趙根林党委副書記は、事件処理の過程で、武装警察1人、共同防衛隊員1人が犠牲となり、特殊武装警察1人が負傷した。大まかな調査で、深刻な暴力テロ事件であることが判明したという。

事件処理に参加した。派出所の警官が通報を受けて出動したり、パトロールする時間を狙い、派出所を襲撃し、税務所の幹部2人が負傷した武装警察チームによると、暴徒らは突然、隣の税務所を襲撃、パトカーを焼き、人質を捕え、警察協力員と派出所にいた住民を殺害した。

この日当直に当たっていた女性警官は、「私はオフィスに戻り鍵を閉めたが、3―4人の暴徒がナイフや斧で床に倒れた警官を切りつけていました。ビックリした私はオフィスで住民2人の対応をしていた。外で叫び声が聞こえたので出てみると、十数人の暴徒が追いかけてきてドアを蹴り開け、燃えている火炎瓶を投げ込んだ」と事件当時を振り返る。

事件発生当時、マイマイティさん(19)のほか、4人が派出所で居住証の手続きをしていた。数人の刃物を手にした暴徒を見ると、マイマイティさんはすぐにドアの鍵を閉め、机などの家具でドアを開けることができなかった。「もし部屋の中に隠れていなかったら、僕も被害者の1人だっただろう。こうした罪のない人たちをみだりに殺害する行為は許せません」と怒りをあらわにし、「事件当時、あまりにビックリして頭が真っ白になった。外は警察と武装警察に囲まれていた」という。

和田警察当局は20日夜、記者をつれて襲撃のあった派出所を訪れた。すでに簡単にペンキが塗られていた。大部分の部屋のドアは暴徒によって斧でズタズタにされていたが、ここで災難が起きたことを感じることができた。現場検証を行った市公安局の警察によると、2階の殺害現場は非常に残忍だったという。壁一面に血痕があり、被害者の女性2人のうち、1人は窓際に倒れていた。身体の十数カ所に斧で切りつけられた痕があったという。

搬送された女性2人は数十カ所に切り傷があり、全身血まみれだったという。事件発生当時、緊急治療にあたった医師によると、暴徒は税務所の幹部2人をナイフで刺し、うち1人が腹部を4カ所刺されて重傷を負い、手術で400ミリリットル以上の輸血をしたが、幸い手当てが迅速だったため命に別状はないという。

2012年7月1日日曜日

メジャー移籍するのか。

もはや日本にライバルはいないと思わせるほど、別次元の投球を見せる日本ハム・ダルビッシュ有。昨年はシーズン終了直後の10月19日にアッと驚く”残留宣言”をしたが、今年もメジャー移籍の話題が新聞紙上をにぎわせ始めている。メジャー側でも「彼は別格」という評価は固まっており、アメリカの野球マニアの間でも移籍先が話題になるなど、日米両国でその動向は注目の的。ただ、実際にポスティングの入札金も含めた大量の資金を投入できる球団となると、候補はそう多くない。

「大本命はメジャー1の資金力を持ち、先発投手陣の若返りが急務のヤンキース。しかも、昨オフはサイ・ヤング賞左腕のクリフ・リー、今年7月にも 1 0 0マイル右腕のウバルド・ヒメネスと、ふたりの”大本命”の獲得に失敗しています。ダルビッシュの視察や調査もいち早く始めており、獲得への意欲は強いはず」(メジャーリーグ評論家・福島良一氏)

では、そのほかの候補は?

「対抗はレンジャーズ。建山義紀、上原浩治と日本人選手の獲得に熱心で、今年6月にはそれぞれヤンキースとレンジャーズの同地区のライバルであるレッドソックス、エンゼルスが挙がりますね。ただ、やはり総合的に見て一番資金をつぎ込む可能性が高いのはヤンキースでしょう」(福島氏)

次に気になるのは入札金額。2006年オフに松坂大輔がレッドソックス入りしたときは5111万ドル(当時のレートで約60億円)だったが…。

「今は日本人投手への過大評価も見直され、経済状況も最悪なので、獲得資金は合計8000万ドル(約61億円)前後を用意する必要があり、必然的に入札金は3000万ドル(約23億円)あたりが上限。25歳という年齢を考えると、球団は5年か6年の長期契約で総額5000万ドル(約38億円)程度に落ち着くのではないでしょうか」(福島氏)

円高の影響もあり、日本ハムにとってはやや寂しい数字か?ところで、実はもうひとつ気がかりな点がある。先日逮捕されたダルビッシュの弟をかつて自身のオフィスで雇用するなど、家族ぐるみで関係の深いメジャー代理人、団野村氏の存在だ。昨オフ、アスレチックスとの交渉が決裂してしまった楽天・岩隈久志の代理人を務めていたのが、この団氏。今回もまた入札球団との交渉が不調に終わってしまうようなことはないだろうか?

「そこは心配ないでしょう。団氏は”日本側の窓口”にすぎず、実際にメジャー球団との交渉にあたるのは、ダルビッシュの父・ファルサ氏とつき合いの長いアーン・テレム氏。ヤンキースのキャッシュマンGMと関係が深く、松井秀喜とも契約する屈指の辣腕代理人です」(スポーツ紙記者)

団・テレムのコンビは故・伊良部秀輝氏がヤンキース入りしたときと同じで、しかも当時、団氏のオフィスで働いていたアフターマン氏は今やヤンキースのGM補佐。やはり、ダルビッシュが伝統のピンストライプに袖を通す可能性はかなり高そうだ。

「どんでん返しがあるとすれば、またダルビッシュ側が『行かない』と言い出すケースです。これ以上の年俸を払えない日本ハムは"移籍ウエルカム"ですが、実はダルビッシュのグラウンド外のことについてはほとんど把握できておらず、昨年の残留宣言も球団関係者が一番驚いたほど(苦笑)。最適なビジネスチャンスを模索するファルサ氏が『時期ではない』と判断する可能性もゼロではないでしょう」(前出・スポーツ紙記者)今年も、オフまで”当確”が出ないままの報道合戦が続く?

2012年6月20日水曜日

幻の新幹線に出合いたい点検専用車探しにファン走る。

乗客がいない。時刻表にも載っていない。そんな新幹線がいま、人気を呼んでいる。東北新幹線などの「East i(イーストアイ)」と、東海道・山陽新幹線の「ドクターイエロー」はともに線路や架線を点検するための専用車だ。運行ダイヤは公表されていない。いつ、どこで見られるのか。ファンの間では、目撃情報が瞬時のうちに駆けめぐり、模型の売れ行きも急増中だ。

平日午前のJR東京駅新幹線ホーム。白地に赤の車体の「イーストアイ」が到着すると、親子連れや会社員らがカメラや携帯電話で一斉に撮影を始めた。子どもたちから「かわいい」との声が飛ぶ。

山形新幹線「つばさ」などに使われているE3系を基に開発され、2002年にお目見えした。東北と上越、長野の新幹線区間では10日に1回、山形、秋田のミニ新幹線区間は年4回、全線を走って検査する。12月に開通する新青森(青森市)―八戸(青森県八戸市)の間でも、走行中の姿が沿線住民の人気を集めている。

6両編成の車内には、大型コンピューターが並べられ、軌道や電力などの計測員12人がモニターに目を光らせている。

JR東日本新幹線技術基準グループリーダーの桑原克也さん(47)は「イーストアイで見つけた線路や架線の異常を即座に直しているから、高速化する新幹線が快適な乗り心地を保てる」と語る。新幹線は開業以来、列車が原因の死亡事故はゼロだ。安全運行を支える「縁の下の力持ち」のような存在だ。

イーストアイの兄貴分が東海道・山陽新幹線(東京―博多)を10日に1回程度走る「ドクターイエロー」。JR東の営業区間でもイーストの登場以前は、ドクターイエローが走っていた。

ドクターイエローの初代は、新幹線開業2年前の1962年に誕生した。団子鼻の初代0系新幹線がベースの車体で、架線などの電気設備だけを点検できた。74年に架線と線路の両方の点検ができる2代目が登場。95年1月の阪神大震災の際、復旧工事を終えた区間を真っ先に走り、営業再開へ向けた最終的な点検をした。

2012年6月19日火曜日

金ETF・金ミニ取引、盛り上がり欠く出足

金への投資手法が多様化しつつある。先物の「ミニ取引」や金価格に連動する上場投資信託(ETF)が相次ぎ登場した。近年の相場上昇で投資先として金への関心が高まっていることを象徴する動きといえそうだ。

東京工業品取引所が7月17日に金ミニ取引を開始して1カ月余りが過ぎた。金先物の取引単位を100グラムと10分の1に引き下げたうえ、損失が事前に決めた額を超えると取引を手じまう「ロスカット制度」を導入してリスクを軽減。商品先物になじみの薄かった個人投資家の取り込みを目指した。

金ミニ初日の7月17日、大阪証券取引所が金ETFを8月10日に上場すると発表した。海外のETFが金現物を証券化するのに対し、日本の現在の投資信託法では商品を組み込むことを認めていない。そこで金価格に連動する債券(リンク債)を使って価格を連動させる形を取った。管理・運営する野村アセットマネジメントでは「短期取引の商品先物と、長期保有の地金の中間のような形を目指し、投資商品のパイを広げたい」としている。

今のところ両市場とも出足は静かだ。金ミニは初日を除き、現在まで1日の売買高が2000―4000枚台の日が多い。「1万枚程度はできてほしかった」(東工取幹部)という期待からはやや物足りないともいえる。大証の金ETFも、初日を除いて1万―4万口(1口は10グラム)の売買高にとどまる。上場間もなく円高が進んで価格が下がった影響が大きい。

ワールド・ゴールド・カウンシルの豊島逸夫日韓地域代表は「金投資の一番の動機はリスク分散。新商品は既存の先物や地金と競合するよりも、新たな投資家を呼び込む可能性がある」と期待する。潜在力を発揮するにはまず株や為替相場が落ち着きを取り戻すことが必要といえそうだ。

2012年6月15日金曜日

「個人情報保護」が支えるサービス価格

2005年4月に個人情報保護法が全面施行されてから約2年半。ビジネスの現場にこの法律が定着する中、サービス価格にもじわじわと影響が広がっている。

流通業や金融機関などはダイレクトメール(DM)の発送を専門会社に委託することが多い。この手数料が05年以降は下げ止まっている。

発送代行の作業料金(東京地区、郵送料除く)は標準タイプ(定期刊行物1点、B5判、100グラム、第3種郵便)ですべて同じ内容物の場合、1通当たり10円弱が目安。バブル崩壊後、3―4割下がった。

この市場には2000年前後に印刷会社などが相次ぎ新規参入し、料金が大幅に値下がりした。ここにきて下げ止まり傾向が広がったのは、個人情報保護法の全面施行で情報管理体制が整った代行会社に需要が集中してきたことが背景にある。

ある大手発送代行会社はバブル期以降、首都圏に分散していた発送拠点を集約した。この結果、出入りする人のチェックが容易になり「企業からの発送依頼が増えた」という。作業の効率が上がり、人材確保もしやすくなったという。

オフィスビルの需給にも個人情報保護法が影響している。

都内のコールセンター。見学ブースからは電話を受けるスタッフの姿が見えるが、会話は一切聞こえない。関係者は「情報が流出しないように防音効果の高い部屋を探した」と語る。

防音だけでなく、入退室のチェック機能を高めたオフィスの需要が高まっている。都内のある仲介会社は「同じ時期に完成した同規模の部屋でも、セキュリティー機能の有無で3―4割程度賃料が違うことも珍しくない」と指摘する。

最近の民間調査では、都内のオフィス空室率の下げ止まり傾向も強まっている。都心部で1%を割ったバブル期に比べればまだ高い水準だが、「セキュリティー面などの付加価値を高められない古い物件がデッドストック状態となっている」(仲介会社)。今後は大幅に空室が減ることはないという指摘もある。

個人情報を外部に流出させた企業がその責任を問われる場面も多くなった。05年4月以降、国内のサービス関連市場でも、利用企業のニーズが変化したことは間違いないようだ。

2012年6月13日水曜日

コメ市場揺るがす「7000円問題」

全国農業協同組合連合会(全農)が2007年産米からコメ農家への買い付け代金の支払い方式を見直す。このことを巡り、産地が揺れている。

これまで全農は農家からコメを集荷する段階で販売予想価格を支払う「仮渡し金」方式を取っていた。これを今年の新米から、内金をまず払い、後に実際の販売額を見ながら追加額を支払う「概算金」方式に変える。この内金の基準価格が60キロ当たり7000円と決まった。このことから概算金方式の導入は「7000円問題」と呼ばれ、各地のJAや生産者から不安の声が上がっている。「コメ価格が7000円まで下がってしまうのではないか」というのだ。

仮渡し金方式の場合、全農は予想した販売価格を集荷時に農家に支払う。予想価格よりも安く売れた場合は支払った仮渡し金の中から回収するのが本来の趣旨だが、実際には難しい。このため市場では、仮渡し金の価格が全農の販売価格の実質的な下限と見なされてきた。

例えば06年産の場合、北海道産米の仮渡し金は60キロ1万円(現在の相対取引価格は約1万3400円)、新潟産コシヒカリは1万5000円(同約1万7600円)だったとされている。

概算金方式ではこれが取りあえず7000円になる。農家にしてみれば、一時的な手取り収入が場合によっては半減する。後は市場での人気次第だ。仮に1万3000円で売れなくても、全農側には6000円の値下げ余地がある計算だ。この場合、当然ながら農家への追加払いはない。

実際は7000円に全農の経費2000―3000円と流通経費が加算され、「市場で取引されるコメ価格は1万2000円程度が下限だろう」(大手卸業者)という。しかし、従来に比べ農家の経営が市場環境に大きく影響を受けることは確実だ。

例えば06年産米で今も在庫があるのは人気が高いとされてきたコシヒカリ。全国で一斉に作られるようになり、供給過剰となったためだ。各地のコシヒカリはブランド米として比較的高値で取引されてきた。しかし07年産米からは、余るようなら全農はより大胆に値引きして売ってしまう可能性が高い。産地にも、今後は消費者が求めているコメを今以上に丁寧に見極めていく努力が求められているようだ。

2012年6月7日木曜日

米景気変調でも原油・穀物が高いワケ

信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題が雇用など米国の実体経済に影響し始めたのにもかかわらず、原油や穀物などの国際商品価格は総じて強い基調を維持している。「景気(需要)後退懸念→商品価格下落」という反応が起きないのは、一見不思議かもしれない。背景にはドル安や実物資産の再評価だけではなく、商品ごとの波動の違いがある。

商品市況を見る場合、短期から中長期までどのような周期の景気変動に反応するかによって(1)非鉄金属などの金属類(2)石油などのエネルギー関連商品(3)穀物などの農産物の3つに分類して考える必要がある。米国のサブプライム問題が実体経済への不安に波及するとともに、国際商品市場では銅や亜鉛などの非鉄、プラチナといった金属価格に下押し圧力が強まった。自動車やIT(情報技術)関連の需要が多く、主要商品の中でも在庫循環など短期の景気変動に反応しやすいからだ。

鋼材や非鉄金属など国内の企業間取引価格で構成する日経商品指数(1970年平均=100)も反落。17種は7月23日に153.744と、1984年12月以来の高水準を付けたが、9月11日時点では143.116と150を大きく下回っている。円高・ドル安の進行もあり、国内景気動向と相関が高い前年同期比の上昇率は7月末の18.5%から、9月11日には9.4%と10%台を割り込んだ。日経商品指数17種の上昇率は昨年5月12日の26.2%から、今年2月に一時10%を下回るまで低下。そこから反転して上昇力を強めていた。しかし現在、日経商品指数が示す国内景気のベクトルは下を向いている。

一方、原油は米原油先物が9月12日に一時1バレル80.18ドルと80ドルを突破するなど強基調が衰えていない。夏場以降、先物相場の価格形成が期近高・期先安になって投資マネーが流入しやすくなった要因はある。だが基本的に景気変動に対する反応が非鉄より遅いためだ。例えば世界需要の4分の1を消費する米国で石油需要が減少に転じるには、消費者が今の大型車から省エネ型の小型車やハイブリッド車に買い替える必要がある。ところが住宅価格の下落で消費力が弱まれば、買い替えが遅れてしまう可能性さえ高い。

世界人口の増加と中国など新興国の生活向上が需要拡大をけん引する大きな流れは変わっていない。気象の影響はあっても主要商品の中で最も長い景気サイクルで動く農産物価格は原油以上に基調が強い。シカゴ市場の小麦先物は一時1ブッシェル9ドル台に乗せ、連日のように史上最高値を更新している。気象庁は太平洋東部赤道域の海水温が平年より低くなる「ラニーニャ現象が冬まで続く可能性が高い」と予測しており、来年も異常気象が農産物価格を押し上げる可能性はある。

原油や農産物市況の強さは、世界景気の中長期トレンドが依然強いことを示す。確かに景気減速にもかかわらずガソリンや食料の高値が続くのは米経済につらい。今後予想される利下げは商品価格を一段と押し上げる可能性もある。だが原油価格が大きく下落し、米国債市場へのオイルマネーの流れが変調したりすれば世界経済はさらに深刻な事態に陥る。焦点はサブプライム問題に伴う当面の景気減速が中長期のトレンドに波及する前に、短期の波動が調整を抜け出せるかどうかだ。

2012年5月23日水曜日

海運市況、転換点は4カ月後?

海運市況が騰勢を強めている。石炭や穀物など資源輸送を担うばら積み不定期船の用船料(海運会社が船主から船を借りる賃料)は今年に入り、過去最高値を更新し続けている。

自動車部品や工作機械などの生産財から、家具や雑貨などの消費財まで様々な貨物を運ぶコンテナ船でも、海運各社が相次いで値上げを表明している。特に欧州航路は海運各社が大型船を投入しているにもかかわらず、一部で積み残しが出るほどの輸送需要がある。

今の海運市況の騰勢は運ぶ貨物が増えているのに輸送能力の増強が追い付かないのが最大の原因だ。1990年代末のアジアやロシアの金融危機後に貿易貨物が減って海運各社が船隊を縮小したり、新造船への投資を手控えたりした影響が残っているともいえる。

もっとも足元の上昇はあまりにも急ピッチだ。ばら積み船の国際運賃指標、バルチック海運指数(1985年平均=1000)は今年6000台に乗せた後、7000台に到達するまで3カ月ほどかかった。だが、その後わずか1カ月で8000台に乗せた。実際の需給を映しているとは言い難い面もありそうだ。

一つは用船市場への投機資金の流入だ。投資銀行や商社などの資金が用船市場にかなり流れ込んでいるとの見方は強いが、市場関係者にもはっきりとした流入規模はわかっていない。

中国をはじめとした経済成長が著しい国や地域の資源輸入需要がばら積み船用船料の騰勢の背景にあるとはいえ、米国をはじめ世界各地で景気減速感が強まれば、少し遅れて資源輸送需要にも影響する可能性は否めない。

造船業界の新船建造能力の制約から少なくとも2011年ごろまでは強い基調が続くとの見方が海運業界関係者には多い。ただ最近になって金融市場を揺るがした米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向けの住宅融資)問題後の米景気の動向には注意する必要があるだろう。

商品市場では先物取引の規模が大きい銅など非鉄市場にすぐに影響が表れた。海運業界では、影響があるとすれば、コンテナ船の荷動きに4カ月ほど後で出てくるとの見方もある。ばら積み船だけでなくコンテナ船の用船料も青天井に上昇するというシナリオは成り立たないだろう。

2012年5月21日月曜日

原油、近づく強気相場の終焉

原油相場の騰勢が衰えない。なかでもニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)期近相場は8月1日に過去最高値を更新し、9月12日に1バレル80ドルを超えた。3月から7月までロンドン市場の北海ブレントを下回っていたのがうそかのような「暴走」ぶりだ。

市場ではにわかに先高予測が台頭している。米ゴールドマン・サックスは供給リスクが顕在化すれば年末までにWTIは90ドルに達し、来年は平均85ドルで推移するとの超強気予測を示した。だが現在の高原相場は持続可能なのか。カギは米国の需要と景気だ。

米国では人口増と所得増で自動車保有台数が増えており、原油価格が高騰してもガソリン需要が伸びてきた。投資マネーが株や債券から原油などの商品に流れ込んでいる背景には、実需の堅調さがある。

それでも米景気が失速すれば、原油需要には間接的に下押し圧力が働く。ばんせい証券の武田真市場調査室長は「米ガソリン消費は小売価格が一時期より下がったにもかかわらず伸びが鈍化しており、個人消費が鈍っている可能性がある」とみる。米住宅ローン問題の影響が個人消費に波及すれば、市場で軽視されている需要減退リスクが注目されるだろう。

原油市場への資金流入を加速させたドル安も、本質的には米景気に対する不安の表れといえる。米金融当局の利下げは一時的に株価を押し上げても、長期的には原油高という副作用を伴って景気下押しリスクにつながりかねない。80ドル近辺の原油高が経済に与える影響は無視できず、長続きは難しいように思える。

2012年5月16日水曜日

好調な中古車輸出、鉄スクラップ高の一因?

世界的に鉄スクラップ価格が上昇している。最大の要因は世界的な鉄の生産拡大による、鉄鉱石や鉄スクラップといった原料の不足だ。しかし日本での値上がりについては、日本車人気が一役買っているとの見方も浮上している。

鉄スクラップ価格は東京市場で10月上旬、1トン当たり3万9000―4万円(指標品、電炉買値)で、1年前より4割強高く、5年前に比べると約3倍になっている。米国内の指標価格も高水準で、今月初めに1トン約266ドルとなり1年前より3割強高い。

鉄スクラップは工場での鉄板の切りくずや、建築物の解体に伴う廃棄鋼材、家電製品や自動車のリサイクルなどで出てくるのが一般的。スクラップ業者はこれを買い集めて、電炉や高炉に販売したり、輸出したりしている。ただ最近はスクラップの発生量自体が少なめになっている。

理由は様々に考えられる。工場のコスト意識が高まり、スクラップの発生を減らしていることなどが指摘されている。ただ業者の中には「日本国内で廃車になる自動車が減っているのではないか」(商社)との見方も出ている。

まず国内の新車販売が振るわない。これは同じ自動車に長く乗り続け、買い替えを先延ばしする人が増えていることにつながる。そうすると、廃車になる中古車が減り、スクラップ発生量の減少につながる、という図式だ。

さらに日本の中古車は海外で人気が高い。ある中古車業者は「トヨタのRAV4など、四輪駆動の大きめの日本車は海外でも高値で販売されており、輸出に回る例もある」と語る。貿易統計で見ると、中古車輸出は今年4月から8月まで10万台前後で好調を維持している。

輸出先で伸びが目立つのはロシアや中東の産油国。ロシアは日本や米国と並ぶ、鉄スクラップの輸出大国の一つだが、最近は内需に振り向けるため鉄スクラップ輸出が減っているという。中古車輸出の増加は日本車人気の高さを示しており、それ自体は喜ばしいことだろう。

ただ回り回って国内の鉄スクラップ需給の引き締まりにつながり、その結果鋼材価格の上昇につながるとしたら痛しかゆしだ。

2012年5月9日水曜日

かまぼこ・ちくわ」に原料高の逆風

水産練り製品大手の日本水産が10月1日、製品値上げを表明した。「活ちくわ」「活かに風味かまぼこ」など、家庭用商品25品目が対象で、値上げ幅は5-15%になる。11月1日から実施する予定だ。

練り製品業界では、今年7月、一正蒲鉾やスギヨ(石川県七尾市)など専業メーカーの多くが最大1割の値上げを打ち出して、スーパーなどと価格交渉を進めている。しかし、最大手の紀文食品(東京・中央)が今回は値上げを見送ったことも影響し、交渉は長期化していた。

こうした状況下で日本水産が値上げ表明したことで浸透に向けて大きな流れができると多くのメーカー関係者が歓迎している。日本水産の値上げ表明の同日発足したマルハニチロホールディングスも値上げの検討に入っているもようだ。

ただ、今回の値上げが浸透したとしても、業界が一息つける余地は少なそうだ。主な原料となる米国産スケソウすり身の輸入価格が今年の秋漁物で、各等級とも1キロ40円(12―15%)の値上がりとなったためだ。指標の上級品(洋上物FA級)は同380円と過去最高値圏だ。「予想以上の値上がり。今回の値上げが成功しても経営環境の厳しさは変わらない」(中堅メーカー)という。

スケソウダラは欧米でのフィレ(三枚おろし)の需要が依然として堅調だ。一方で、厳格な資源管理を実施する米国は、来年以降も漁獲枠を絞り込む方針とみられる。東南アジアでも、代替となるイトヨリダイなどが取れなくなっており、スケソウ価格が今後、下落する見通しは少ない。

メーカー各社はすでに数年前から、低いグレードの原材料の使用比率を上げて生産コストを抑えるなどの対策に乗り出している。中には「さらに質を低下させることでしか乗り切る方法がない」との声も上がっている。しかし、安易な質の低下は、食感の悪さなどにつながり消費者の練り製品離れを加速させる可能性がある。多くの経営者がジレンマに陥っている。

中小を中心に全国で1000社以上あるという練り製品業者。「経営者は一国一城のあるじ」といわれ、吸収合併などが進みにくい体質だ。今後さらに廃業が加速するのは間違いない情勢だ。業界では9月、大阪市で恒例の品評会を実施した。しかし、開催は今回が最後という。大手メーカーの幹部は「今年の秋は練り製品業界にとって大きな転換点になった。これから長い冬の時期が続く可能性もある」と顔を曇らせた。

2012年5月2日水曜日

糖化製品値上げ、運賃高騰は理解されず?

飲料や菓子の甘味料として使う異性化糖など糖化製品メーカーが海上運賃の高騰に悲鳴を上げている。原料となるトウモロコシが高止まりしている上、海上運賃は依然として先高観が強くコストの上昇が止まらない。各社は10月から1キロ10円の再値上げを打ち出し、必死の覚悟で交渉に臨んでいるが需要家の抵抗は強く全面浸透するかは微妙だ。

トウモロコシのシカゴ相場は現在、1ブッシェル3.6ドル前後。今年3月の4ドル台からは水準を切り下げたものの、前年同期に比べれば50%前後高い。メーカー各社は原料のトウモロコシの高騰を理由に今年1月から1キロ10円の値上げを打ち出し、満額で決着。ただトウモロコシの上昇が止まらないことから4月以降、同額の第2次値上げを表明した。相次ぐ値上げに需要家の抵抗は強く、現在のところ4―5円の浸透にとどまっている。

ここにきてメーカーの頭を悩ませているのが海上運賃の高騰だ。年初に1トン当たり55ドル程度だった「米メキシコ湾岸―日本」の穀物運賃は現在、約2倍となり100ドルを突破した。中国の旺盛な資源需要を背景にさらに上昇を続け「年内に120ドルに乗せるのは確実」(糖化製品メーカー)という。大手糖化製品メーカーの営業担当部長は「年初に調達コストの内訳はトウモロコシが69%、海上運賃が25%だったが、現在はトウモロコシ50%、海上運賃が40%。そのうち海上運賃の占める比率が逆転するのでは」と苦笑する。

メーカー側にとって海上運賃の高騰は二重の意味で負担だ。一つは原料調達コストを押し上げること。二つ目は、これまで値上げの理由は価格がオープンになっている「トウモロコシのシカゴ相場の上昇」だったが、海上運賃の高騰は「交渉の場ではなかなか理解されにくい」(糖化製品メーカー)点だ。メーカー各社は第2次値上げで積み残した1キロ5―6円に加えてさらに10円の上積みの年内決着を目指す。だが交渉の優位性は需要家側にあり、満額決着は厳しそうだ。

さらに一つ、糖化製品メーカーの悩みの種が遺伝子非組み換えトウモロコシの確保。米国では一段と組み換え製品へのシフトが進んでおり、非組み換え製品のプレミアム(割増金)が一段と上昇するのは必至。メーカーにとって今年はいつになく厳しい冬となりそうだ。

2012年4月19日木曜日

天井見えた銀座の賃料高騰

日本の商業地の最高峰、東京・銀座で、店舗賃料が高騰している。米不動産情報大手の日本法人、シービー・リチャードエリス(東京・港)の調査では、銀座4、5丁目付近の中央通り沿いで、1階店舗の賃料は3.3平方メートル当たり月20万―25万円に達している。日本がデフレにあえいでいた2003年ごろと比べると、賃料が2倍になった物件もあるという。

不動産価格の算出方法として定着した収益還元法が、賃料高騰につながったとの指摘がある。収益還元法では、賃料収入から修繕費や固定資産税などの経費を差し引いて不動産から毎年生まれるキャッシュフロー(現金収支)を計算し、一定の利率で割り引いて不動産の価値を決める。

賃料が上昇すれば不動産価値も上がるので、オーナーから理論武装の依頼を受けた不動産鑑定士が、強気の賃料を算出するケースがあるという。

海外の有力ファッションブランドの出店ラッシュも、賃料高騰をけん引した。「銀座の1階店舗は、利益が上がらなくても宣伝効果が極めて大きい」として、店舗単位での採算を度外視して出店するテナントもある。

不動産業界の関係者によると、ある海外有名ブランドは、3.3平方メートル当たり5万円程度を広告宣伝費見合いとして賃料に上乗せして、好立地の店舗を確保したという。「日本の会社が払える賃料は15万円が限度。20万円を超える賃料が支払えるのは、海外のスーパーブランドだけ」で、銀座の希少性が賃料上昇に拍車をかけている。

ただ、「銀座でのラグジュアリー(豪華)ブランドの出店は一巡した」(仲介業者)との声が聞かれる。店舗賃料がこのまま上昇を続けると、次のターゲットは30万円以上だが「そのような高い賃料を支払えるブランドは、もう残っていない」。上昇が続いてきた銀座の店舗賃料は、いったん踊り場を迎える可能性が出てきた。

2012年4月10日火曜日

綿実油、原料高で市場消滅の危機?

綿花の実を搾って作る綿実油のメーカーが苦境に立たされている。エタノールの需要拡大を受けて原料となるトウモロコシの作付けが米国で急増し、そのあおりで綿花の作付けが減った。主産地の米テキサス州での生産は急減している。綿実油メーカーにとっては原料調達に黄信号がともった格好だ。

「綿実価格の急騰に頭を抱えている」。日本で唯一の綿実油メーカー、岡村製油の役員は困惑した表情で話す。米国産綿実の10―12月の対日輸出価格は1トン265―270ドルで1年前より5割高い。
テキサス州は本来トウモロコシの生育に適さない土地だが、農家は綿花からトウモロコシに切り替えている。エタノール向けのトウモロコシ人気はここまで波及している。

米農務省によると、今年、米国の綿花の作付面積は1085万エーカーと前年比3割減った。生産量も減少が確実だ。綿実の出荷も減っており、岡村製油は必要量の確保が難しくなっている。

綿花のほかの産地はどうか。オーストラリアは干ばつで生産量が急減し、輸出力が衰えている。インドや中国は品質に不安があり使いにくい。高くても米国産を調達するしかないのが実情だ。

原料の綿実高を理由に同社は製品値上げに取り組む。しかし、綿実油は大豆油や菜種油と比べてかなり割高だ。用途は高級マーガリン向けなど一部に限られている。「値上げ要請を無理強いすると市場そのものがなくなってしまう」(同社役員)と心配顔だ。

2012年4月3日火曜日

新価格体系「消極派」王子製紙に注目

印刷用紙の軽量コート紙と微塗工紙。製紙会社は新たな価格体系導入を目指しているが、2大メーカーで温度差がある。積極的な日本製紙に比べ、王子製紙はやや慎重に進めたい考えのようだ。

軽量コート紙の場合、一般的に1平方メートル当たり60グラム品から79グラム品まで4製品ある。メーカーは「軽量コート紙を100平方メートル欲しい」などと面積単位で注文を受け、79グラム品でも60グラム品でもほぼ同じ価格で出荷している。

メーカーは、軽い製品は紙の強度を高める原材料のコストが余分に必要なことなどから、「同じ価格ではもうけが少なくなる」と説明する。この言い分を盾に体系を見直し、軽量コート紙は64グラム品を基準にして1グラム軽くなるごとに約1円ずつ上乗せする案が有力。微塗工紙は54グラム品を基準に、同じように加算する。

日本製紙は見直し案の具体的検討をほぼ終えており、最も積極的といえる。同社の2006年の生産量シェアは軽量コート紙で約23%、微塗工紙で約41%と首位。体系見直しは実質値上げになり、同社が最も恩恵を受ける。

一方、王子製紙は重要な検討課題としつつも、業界の先頭に立つほどは力を入れていないようだ。同社は06年春の印刷用紙値上げの際、コスト上昇の転嫁分と合わせて体系見直し実施を最初に打ち出したが、失敗に終わった。これが尾を引いているといわれる。

この失敗は他社が本気で追随しなかったことから起きた。各社は王子製紙の体系見直し方針に追随したが、結局はコスト転嫁分の値上げを優先する考えに変わり、交渉から抜けたメーカーがあった。印刷大手は「議論は自然に消えた」と当時を振り返る。

製紙業界には「王子が本気にならなければ値上げは進みにくい」との雰囲気が強い。王子製紙や日本製紙以外のメーカーは両社の動向をにらんでいる。王子がどのような姿勢で取り組むかが、価格体系見直しの一つのカギになる。