2012年6月7日木曜日

米景気変調でも原油・穀物が高いワケ

信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題が雇用など米国の実体経済に影響し始めたのにもかかわらず、原油や穀物などの国際商品価格は総じて強い基調を維持している。「景気(需要)後退懸念→商品価格下落」という反応が起きないのは、一見不思議かもしれない。背景にはドル安や実物資産の再評価だけではなく、商品ごとの波動の違いがある。

商品市況を見る場合、短期から中長期までどのような周期の景気変動に反応するかによって(1)非鉄金属などの金属類(2)石油などのエネルギー関連商品(3)穀物などの農産物の3つに分類して考える必要がある。米国のサブプライム問題が実体経済への不安に波及するとともに、国際商品市場では銅や亜鉛などの非鉄、プラチナといった金属価格に下押し圧力が強まった。自動車やIT(情報技術)関連の需要が多く、主要商品の中でも在庫循環など短期の景気変動に反応しやすいからだ。

鋼材や非鉄金属など国内の企業間取引価格で構成する日経商品指数(1970年平均=100)も反落。17種は7月23日に153.744と、1984年12月以来の高水準を付けたが、9月11日時点では143.116と150を大きく下回っている。円高・ドル安の進行もあり、国内景気動向と相関が高い前年同期比の上昇率は7月末の18.5%から、9月11日には9.4%と10%台を割り込んだ。日経商品指数17種の上昇率は昨年5月12日の26.2%から、今年2月に一時10%を下回るまで低下。そこから反転して上昇力を強めていた。しかし現在、日経商品指数が示す国内景気のベクトルは下を向いている。

一方、原油は米原油先物が9月12日に一時1バレル80.18ドルと80ドルを突破するなど強基調が衰えていない。夏場以降、先物相場の価格形成が期近高・期先安になって投資マネーが流入しやすくなった要因はある。だが基本的に景気変動に対する反応が非鉄より遅いためだ。例えば世界需要の4分の1を消費する米国で石油需要が減少に転じるには、消費者が今の大型車から省エネ型の小型車やハイブリッド車に買い替える必要がある。ところが住宅価格の下落で消費力が弱まれば、買い替えが遅れてしまう可能性さえ高い。

世界人口の増加と中国など新興国の生活向上が需要拡大をけん引する大きな流れは変わっていない。気象の影響はあっても主要商品の中で最も長い景気サイクルで動く農産物価格は原油以上に基調が強い。シカゴ市場の小麦先物は一時1ブッシェル9ドル台に乗せ、連日のように史上最高値を更新している。気象庁は太平洋東部赤道域の海水温が平年より低くなる「ラニーニャ現象が冬まで続く可能性が高い」と予測しており、来年も異常気象が農産物価格を押し上げる可能性はある。

原油や農産物市況の強さは、世界景気の中長期トレンドが依然強いことを示す。確かに景気減速にもかかわらずガソリンや食料の高値が続くのは米経済につらい。今後予想される利下げは商品価格を一段と押し上げる可能性もある。だが原油価格が大きく下落し、米国債市場へのオイルマネーの流れが変調したりすれば世界経済はさらに深刻な事態に陥る。焦点はサブプライム問題に伴う当面の景気減速が中長期のトレンドに波及する前に、短期の波動が調整を抜け出せるかどうかだ。