2015年9月11日金曜日

三年で消えた七〇年の成果

アメリカの債務国転落の衝撃は、そのテンポをみれば容易に想像がつく。アメリカは一九一四年に債権国になった。その年以降、アメリカは経常収支黒字累積国になったのである。そして第二次大戦後は世界最大の債権国として君臨し、八一年には史上最高の一四〇九億ドルの対外純資産を記録し、八二年にも一三六七億ドルの純資産を保有していた。約七〇年間の経常収支黒字累積の成果である。

ところが、純資産は、八三年に八九〇億ドルに減少した後、八四年にはわずか三三億ドルに激減し、八五年にはついに一一一四億ドルの債務超過となり、世界最大にして史上最大の債務国に転落したのである。一〇〇〇億ドルを超える史上最大の債権国が、わずか三年間で一〇〇〇億ドルを超える債務国に転落したということは、約七〇年間に蓄積した経常収支黒字の倍にのぼるような経常収支赤字をたった三年間で記録したということにほかならない(ちなみに新統計[七三ページの注参照]によれば、八二年をピークとする純資産がほぼ消滅したのは八六年であった)。そしてその後もアメリカの経常収支赤字は継続し、対外債務は増え続けた。

このことは、アメリカが八四年以降、毎年一〇〇〇億ドルを超えるような経常収支赤字を出し続けたということ、つまりそれだけの額の国内購買力が年々海外に流出し、GNPの足をひっぱってきたということである。こうして、八〇年代後半に、国際的不均衡は、かつての貿易摩擦のたんなる量的拡大の域を超えて、アメリカ経済の、したがってまた世界経済の死活の問題となったのである。

戦後、世界各国はアメリカ経済とドルに大きく依存することによって経済を拡大してきた。戦後初期にはマーシャル援助などのアメリカの対外援助が、五〇年代以降は。世界の憲兵としてのアメリカの対外軍事支出とアメリカ系多国籍企業の進出(資本輸出)によるドル散布が、各国の外貨(ドル)不足を緩和し、戦後復興とその後の高成長を準備した。