2014年9月11日木曜日

『隠れ借金』によるその場しのぎ

「社説」の批判は正論である。だが実は、防衛費の対前年度伸び率は低下しているものの、歳出額は削減をみていないどころか増加している。その基本的理由は、九〇年度予算以来どっしりと防衛予算に重きを占めている後年度負担(国庫債務負担行為の歳出化と継続費支出)にある。定員削減による人件費・糧食費に大ナタを振るうことは当然として、国庫債務負担行為に根本からの見直しをはからないかぎり、防衛予算の硬直性は直されることはないだろう。

防衛予算に立ち入ったのは、国庫債務負担行為限度額の約半分が、防衛費の限度額であるためである。したがって、防衛予算の硬直性は、とりもなおさず一般会計の硬直性を意味している。建設・赤字国債の発行と累積、それによる国債費の増加だけが問題なのではない。国庫債務負担行為を特定政策領域の財源調達手段とすることによって、予算の弾力性は一段と失われているのである。

国債の発行や国庫債務負担行為などの「表に出ている借金」とは別に、一般会計の歳入のやりくりのために、特別会計からの借入れ、法定されている基金等への歳出の停止、本来払うべき債務の先送りなど、さまざまな財源確保のテクニ″クが用いられている。これらのテクニックによって生じる債務は、一般に「隠れ借金」とよばれる。

一九九五年度予算における「隠れ借金」の実態については、すでに第一章において触れた。そこでも述べたように、法律上歳出が義務づけられている厚生年金特別会計や雇用保険特別会計への国庫負担金の繰り延べ、国債整理基金への繰入停止、一般会計の債務の返済先送りなどの複雑な操作が行われている。当年度の歳入を確保するために、歳出の先送りを行おうとも、それらは一般会計の債務として累積し、いずれ返済の措置をとらなくてはならない。この意味で、こうしたテクニックによるその場しのぎの措置は、政府の借金となって、新たな課題に対応した政策展開を制約する。

大蔵官僚は、「赤字国債は、いったん出すと歯止めがかからない。制度的にも金額的にも制約のある『隠れ借金』方式の方がましである」と語るが、それは論弁といわざるをえない。赤字国債であれ建設国債であれ、国債は発行額が明示されており、国民には分かりやすい。だが、「隠れ借金」は、大蔵大臣にすら「理解不可能」といわしめるほど、複雑な会計操作であって、その統制がきわめて難しい。赤字国債の発行に「歯止め」がかかるかどうかは、政治の能力の問題であり、「歯止め」論は「隠れ借金」を正当化する論理とはならない。