2015年11月12日木曜日

経済にプラスとなるが、環境には打撃を与える

原油や他商品の価格が暴落したことは、それらを消費するヨーロッパや日本、それにアメリカなどのすべての富裕国、さらに中国にとっても朗報であった。エネルギーや他の原料コストが大幅に引き下がることは、あたかも私たちの税金が軽減されるようなものだからである。コストが下がれば、誰しも暮らし向きが良くなる。世界が不況に陥って以来、それほど生活が楽とは思えなかったが、実際は良かったのである。もし、原油や銅、それに他資源の価格が二〇〇八年半ばのままであれば、世界的経済不況は、より深刻になっていたに違いない。

しかし、この価格暴落は。環境問題には悪い知らせとなった。多くの人は、企業や世帯が道徳心や政治的理念から、より環境に配慮した(クリーンな)製造法や生活様式をとるものと考えがちだ。というのも、企業や世帯は、世界を地球温暖化から救い、より住みやすい場所にしたいと、思っているからである。だが、このように考えるのは甘すぎる。私たちのほとんどが、道徳心や政治的信念から環境に配慮すべきだという思いでいられるのは、数時間ないしは、せいぜい数日間である。その後は、自分たち本来の生活に入り、限られた収入と富を最大限に活用し、入手できる価格やテクノロジーを利用して、競争に負けじと精一杯の努力をする。

これを変えるために、何をすべきか、また、どのような行動をすれば良いか。この点について、長い目で見ると、次の二つの方法しかない。それは、価格と強制、つまり、値上げが与える影響と、異なった行動を強いる新法である。イラクに侵攻する前、一バレル当たり三〇ドル以下だった原油価格が、二〇〇八年六月に一バレル当たり約一五〇ドルに高騰したことは、消費者や産業にとって大きな痛手となった。しかし消費者はそれに素早く反応し、運転を控えて家の断熱性能を上げ、暖房を控えた。また、企業にエネルギーを節約する方策を考えさせた。

アメリカでは、ガソリンを浪費するピックアップートラック(ボンネットがあり、後ろの座席を荷台とした軽量トラック)と、スポーツカーの市場が崩壊した。すべての先進国では、ガソリンの消費を減らし電気で稼動する、トヨタのプリウスや、他のハイブリッド車が驚異的な売り上げを見せ、成功を収めた。同時に、自動車メーカーやその他の企業は、電気モーターや、より高性能の電池などの新たな技術の研究開発に、多額の投資をするようになった。さらに、他の再生可能、または、少なくとも非化石燃料のエネルギー源である、風、太陽光、潮流に加え、あらゆる種類のバイオ燃料への投資が促されたのである。

しかし、中国やインド、その他の発展途上国は、このような反応を見せなかった。すなわち、企業や世帯が、高価な化石燃料を他のエネルギー源に代えたり、燃費の良い車を購入することはなかったのだ。それはヽ政治的な理由からであるぺこれらの国ではヽ燃料小売価格が規則や補助金で抑えられており、資源高騰による衝撃は、消費者や企業に転嫁されず、主として政府財政に吸収されたのだ。しかし、これは政府にとってあまりにも大きな負担となったので、それを再び行なうことはないだろう。いずれにしても、世界的金融危機に直面して財政赤字が増えているので、政府にそんな余裕はない。