2012年5月23日水曜日

海運市況、転換点は4カ月後?

海運市況が騰勢を強めている。石炭や穀物など資源輸送を担うばら積み不定期船の用船料(海運会社が船主から船を借りる賃料)は今年に入り、過去最高値を更新し続けている。

自動車部品や工作機械などの生産財から、家具や雑貨などの消費財まで様々な貨物を運ぶコンテナ船でも、海運各社が相次いで値上げを表明している。特に欧州航路は海運各社が大型船を投入しているにもかかわらず、一部で積み残しが出るほどの輸送需要がある。

今の海運市況の騰勢は運ぶ貨物が増えているのに輸送能力の増強が追い付かないのが最大の原因だ。1990年代末のアジアやロシアの金融危機後に貿易貨物が減って海運各社が船隊を縮小したり、新造船への投資を手控えたりした影響が残っているともいえる。

もっとも足元の上昇はあまりにも急ピッチだ。ばら積み船の国際運賃指標、バルチック海運指数(1985年平均=1000)は今年6000台に乗せた後、7000台に到達するまで3カ月ほどかかった。だが、その後わずか1カ月で8000台に乗せた。実際の需給を映しているとは言い難い面もありそうだ。

一つは用船市場への投機資金の流入だ。投資銀行や商社などの資金が用船市場にかなり流れ込んでいるとの見方は強いが、市場関係者にもはっきりとした流入規模はわかっていない。

中国をはじめとした経済成長が著しい国や地域の資源輸入需要がばら積み船用船料の騰勢の背景にあるとはいえ、米国をはじめ世界各地で景気減速感が強まれば、少し遅れて資源輸送需要にも影響する可能性は否めない。

造船業界の新船建造能力の制約から少なくとも2011年ごろまでは強い基調が続くとの見方が海運業界関係者には多い。ただ最近になって金融市場を揺るがした米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向けの住宅融資)問題後の米景気の動向には注意する必要があるだろう。

商品市場では先物取引の規模が大きい銅など非鉄市場にすぐに影響が表れた。海運業界では、影響があるとすれば、コンテナ船の荷動きに4カ月ほど後で出てくるとの見方もある。ばら積み船だけでなくコンテナ船の用船料も青天井に上昇するというシナリオは成り立たないだろう。

2012年5月21日月曜日

原油、近づく強気相場の終焉

原油相場の騰勢が衰えない。なかでもニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)期近相場は8月1日に過去最高値を更新し、9月12日に1バレル80ドルを超えた。3月から7月までロンドン市場の北海ブレントを下回っていたのがうそかのような「暴走」ぶりだ。

市場ではにわかに先高予測が台頭している。米ゴールドマン・サックスは供給リスクが顕在化すれば年末までにWTIは90ドルに達し、来年は平均85ドルで推移するとの超強気予測を示した。だが現在の高原相場は持続可能なのか。カギは米国の需要と景気だ。

米国では人口増と所得増で自動車保有台数が増えており、原油価格が高騰してもガソリン需要が伸びてきた。投資マネーが株や債券から原油などの商品に流れ込んでいる背景には、実需の堅調さがある。

それでも米景気が失速すれば、原油需要には間接的に下押し圧力が働く。ばんせい証券の武田真市場調査室長は「米ガソリン消費は小売価格が一時期より下がったにもかかわらず伸びが鈍化しており、個人消費が鈍っている可能性がある」とみる。米住宅ローン問題の影響が個人消費に波及すれば、市場で軽視されている需要減退リスクが注目されるだろう。

原油市場への資金流入を加速させたドル安も、本質的には米景気に対する不安の表れといえる。米金融当局の利下げは一時的に株価を押し上げても、長期的には原油高という副作用を伴って景気下押しリスクにつながりかねない。80ドル近辺の原油高が経済に与える影響は無視できず、長続きは難しいように思える。

2012年5月16日水曜日

好調な中古車輸出、鉄スクラップ高の一因?

世界的に鉄スクラップ価格が上昇している。最大の要因は世界的な鉄の生産拡大による、鉄鉱石や鉄スクラップといった原料の不足だ。しかし日本での値上がりについては、日本車人気が一役買っているとの見方も浮上している。

鉄スクラップ価格は東京市場で10月上旬、1トン当たり3万9000―4万円(指標品、電炉買値)で、1年前より4割強高く、5年前に比べると約3倍になっている。米国内の指標価格も高水準で、今月初めに1トン約266ドルとなり1年前より3割強高い。

鉄スクラップは工場での鉄板の切りくずや、建築物の解体に伴う廃棄鋼材、家電製品や自動車のリサイクルなどで出てくるのが一般的。スクラップ業者はこれを買い集めて、電炉や高炉に販売したり、輸出したりしている。ただ最近はスクラップの発生量自体が少なめになっている。

理由は様々に考えられる。工場のコスト意識が高まり、スクラップの発生を減らしていることなどが指摘されている。ただ業者の中には「日本国内で廃車になる自動車が減っているのではないか」(商社)との見方も出ている。

まず国内の新車販売が振るわない。これは同じ自動車に長く乗り続け、買い替えを先延ばしする人が増えていることにつながる。そうすると、廃車になる中古車が減り、スクラップ発生量の減少につながる、という図式だ。

さらに日本の中古車は海外で人気が高い。ある中古車業者は「トヨタのRAV4など、四輪駆動の大きめの日本車は海外でも高値で販売されており、輸出に回る例もある」と語る。貿易統計で見ると、中古車輸出は今年4月から8月まで10万台前後で好調を維持している。

輸出先で伸びが目立つのはロシアや中東の産油国。ロシアは日本や米国と並ぶ、鉄スクラップの輸出大国の一つだが、最近は内需に振り向けるため鉄スクラップ輸出が減っているという。中古車輸出の増加は日本車人気の高さを示しており、それ自体は喜ばしいことだろう。

ただ回り回って国内の鉄スクラップ需給の引き締まりにつながり、その結果鋼材価格の上昇につながるとしたら痛しかゆしだ。

2012年5月9日水曜日

かまぼこ・ちくわ」に原料高の逆風

水産練り製品大手の日本水産が10月1日、製品値上げを表明した。「活ちくわ」「活かに風味かまぼこ」など、家庭用商品25品目が対象で、値上げ幅は5-15%になる。11月1日から実施する予定だ。

練り製品業界では、今年7月、一正蒲鉾やスギヨ(石川県七尾市)など専業メーカーの多くが最大1割の値上げを打ち出して、スーパーなどと価格交渉を進めている。しかし、最大手の紀文食品(東京・中央)が今回は値上げを見送ったことも影響し、交渉は長期化していた。

こうした状況下で日本水産が値上げ表明したことで浸透に向けて大きな流れができると多くのメーカー関係者が歓迎している。日本水産の値上げ表明の同日発足したマルハニチロホールディングスも値上げの検討に入っているもようだ。

ただ、今回の値上げが浸透したとしても、業界が一息つける余地は少なそうだ。主な原料となる米国産スケソウすり身の輸入価格が今年の秋漁物で、各等級とも1キロ40円(12―15%)の値上がりとなったためだ。指標の上級品(洋上物FA級)は同380円と過去最高値圏だ。「予想以上の値上がり。今回の値上げが成功しても経営環境の厳しさは変わらない」(中堅メーカー)という。

スケソウダラは欧米でのフィレ(三枚おろし)の需要が依然として堅調だ。一方で、厳格な資源管理を実施する米国は、来年以降も漁獲枠を絞り込む方針とみられる。東南アジアでも、代替となるイトヨリダイなどが取れなくなっており、スケソウ価格が今後、下落する見通しは少ない。

メーカー各社はすでに数年前から、低いグレードの原材料の使用比率を上げて生産コストを抑えるなどの対策に乗り出している。中には「さらに質を低下させることでしか乗り切る方法がない」との声も上がっている。しかし、安易な質の低下は、食感の悪さなどにつながり消費者の練り製品離れを加速させる可能性がある。多くの経営者がジレンマに陥っている。

中小を中心に全国で1000社以上あるという練り製品業者。「経営者は一国一城のあるじ」といわれ、吸収合併などが進みにくい体質だ。今後さらに廃業が加速するのは間違いない情勢だ。業界では9月、大阪市で恒例の品評会を実施した。しかし、開催は今回が最後という。大手メーカーの幹部は「今年の秋は練り製品業界にとって大きな転換点になった。これから長い冬の時期が続く可能性もある」と顔を曇らせた。

2012年5月2日水曜日

糖化製品値上げ、運賃高騰は理解されず?

飲料や菓子の甘味料として使う異性化糖など糖化製品メーカーが海上運賃の高騰に悲鳴を上げている。原料となるトウモロコシが高止まりしている上、海上運賃は依然として先高観が強くコストの上昇が止まらない。各社は10月から1キロ10円の再値上げを打ち出し、必死の覚悟で交渉に臨んでいるが需要家の抵抗は強く全面浸透するかは微妙だ。

トウモロコシのシカゴ相場は現在、1ブッシェル3.6ドル前後。今年3月の4ドル台からは水準を切り下げたものの、前年同期に比べれば50%前後高い。メーカー各社は原料のトウモロコシの高騰を理由に今年1月から1キロ10円の値上げを打ち出し、満額で決着。ただトウモロコシの上昇が止まらないことから4月以降、同額の第2次値上げを表明した。相次ぐ値上げに需要家の抵抗は強く、現在のところ4―5円の浸透にとどまっている。

ここにきてメーカーの頭を悩ませているのが海上運賃の高騰だ。年初に1トン当たり55ドル程度だった「米メキシコ湾岸―日本」の穀物運賃は現在、約2倍となり100ドルを突破した。中国の旺盛な資源需要を背景にさらに上昇を続け「年内に120ドルに乗せるのは確実」(糖化製品メーカー)という。大手糖化製品メーカーの営業担当部長は「年初に調達コストの内訳はトウモロコシが69%、海上運賃が25%だったが、現在はトウモロコシ50%、海上運賃が40%。そのうち海上運賃の占める比率が逆転するのでは」と苦笑する。

メーカー側にとって海上運賃の高騰は二重の意味で負担だ。一つは原料調達コストを押し上げること。二つ目は、これまで値上げの理由は価格がオープンになっている「トウモロコシのシカゴ相場の上昇」だったが、海上運賃の高騰は「交渉の場ではなかなか理解されにくい」(糖化製品メーカー)点だ。メーカー各社は第2次値上げで積み残した1キロ5―6円に加えてさらに10円の上積みの年内決着を目指す。だが交渉の優位性は需要家側にあり、満額決着は厳しそうだ。

さらに一つ、糖化製品メーカーの悩みの種が遺伝子非組み換えトウモロコシの確保。米国では一段と組み換え製品へのシフトが進んでおり、非組み換え製品のプレミアム(割増金)が一段と上昇するのは必至。メーカーにとって今年はいつになく厳しい冬となりそうだ。