2015年4月11日土曜日

食文化の伝播

女性や子ども、それに障害者など、社会的弱者の人権は守られなければならないという基本的な考え方に、正面切ってノーという指導者はいないだろう。だが、何をどう守るか具体的なことの一つ一つは、民族や社会の伝統によって大きく異なる。身体の線をあらわにしないイスラム女性の服装が、服装の自由という権利を奪うものではなく、男性の目から身を守るための権利である、という主張も成り立つのだ。

さきにいくっかあげたような悪習は、当然、とりはらわれなければならないものだとしても、そのためには社会的・文化的背景を知り尽くした当の女性たちが立ち上がらなければならない。アラブ民族の問題を欧米の価値観一辺倒で語ってはいけないのと同様、民族固有の文化・伝統と結びついたジェンダーの問題も、欧米のモノサシだけでははかれないのである。

文化人類学風を装って民族の食を語ろうとすると、たとえばデンプン質の主食におかずを添えるというアジア的な食と、パンはあくまでも食卓の一皿にすぎないという西欧的な食に分類したり、デンプン食を大きく、コムギ、イネ、雑穀、イモ類に分けたり、またそれぞれの調理方法を地域別に比べたりということになる。あるいは乳や乳製品、発酵食品、香辛料、酒などの種類や分布もテーマになるし、手を使うか箸かフォークかといった食べ方、マナーや、調理と食事の道具類も民族色を映していておもしろい。

ヒンドゥー教徒の牛やイスラムの豚に代表されるタブーの謎解きも興味深いし、象やキリンといった大型動物から戻虫類や虫にいたるまでの「ちょっと変わった食材」を各地に求めるのも、あまり学問的ではないが話題にはなる。ここでは紙数も限られていることなので、「民族の伝統食」と考えられている食べ物のルーツをさぐりながら、食の伝播を考える糸口としたい。

食の伝播というとき、素材が新しくもたらされるというケースと、料理法や食べ方など食文化がそっくり伝えられるケースとが考えられる。前者の、新しい食材の伝播という意味ではヽ「新大陸発見」の副産物であるジャガイモやトウモロコシやトウガラシが好例だ。新大陸の食物が世界各地の食文化をいかに変えたかについては後で述べるが、後者の、料理の伝播の例としては、中国に発祥する麺をとりあげる。