2012年5月9日水曜日

かまぼこ・ちくわ」に原料高の逆風

水産練り製品大手の日本水産が10月1日、製品値上げを表明した。「活ちくわ」「活かに風味かまぼこ」など、家庭用商品25品目が対象で、値上げ幅は5-15%になる。11月1日から実施する予定だ。

練り製品業界では、今年7月、一正蒲鉾やスギヨ(石川県七尾市)など専業メーカーの多くが最大1割の値上げを打ち出して、スーパーなどと価格交渉を進めている。しかし、最大手の紀文食品(東京・中央)が今回は値上げを見送ったことも影響し、交渉は長期化していた。

こうした状況下で日本水産が値上げ表明したことで浸透に向けて大きな流れができると多くのメーカー関係者が歓迎している。日本水産の値上げ表明の同日発足したマルハニチロホールディングスも値上げの検討に入っているもようだ。

ただ、今回の値上げが浸透したとしても、業界が一息つける余地は少なそうだ。主な原料となる米国産スケソウすり身の輸入価格が今年の秋漁物で、各等級とも1キロ40円(12―15%)の値上がりとなったためだ。指標の上級品(洋上物FA級)は同380円と過去最高値圏だ。「予想以上の値上がり。今回の値上げが成功しても経営環境の厳しさは変わらない」(中堅メーカー)という。

スケソウダラは欧米でのフィレ(三枚おろし)の需要が依然として堅調だ。一方で、厳格な資源管理を実施する米国は、来年以降も漁獲枠を絞り込む方針とみられる。東南アジアでも、代替となるイトヨリダイなどが取れなくなっており、スケソウ価格が今後、下落する見通しは少ない。

メーカー各社はすでに数年前から、低いグレードの原材料の使用比率を上げて生産コストを抑えるなどの対策に乗り出している。中には「さらに質を低下させることでしか乗り切る方法がない」との声も上がっている。しかし、安易な質の低下は、食感の悪さなどにつながり消費者の練り製品離れを加速させる可能性がある。多くの経営者がジレンマに陥っている。

中小を中心に全国で1000社以上あるという練り製品業者。「経営者は一国一城のあるじ」といわれ、吸収合併などが進みにくい体質だ。今後さらに廃業が加速するのは間違いない情勢だ。業界では9月、大阪市で恒例の品評会を実施した。しかし、開催は今回が最後という。大手メーカーの幹部は「今年の秋は練り製品業界にとって大きな転換点になった。これから長い冬の時期が続く可能性もある」と顔を曇らせた。